白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ローザベルとウィルバーと裏切りの黒き烏
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――鈴なりに咲く薔薇のように可憐な、俺の花嫁さん。
ウィルバーはそう言って、ローザベルにキスをする。舌を絡ませて、何度も唾液を飲み込んで、息が詰まりそうなほどの甘い口づけに、ふたりは酔う。
「ローザ、ベル……いい名前だ」
「ウィルバー……さま」
怪盗アプリコット・ムーンとしか呼んでなかったウィルバーが、ここにきて自分のことをローザベルと呼んだのはなぜだろう。
不思議そうな表情のローザベルに、ウィルバーが恥ずかしそうに応える。
「前世の記憶なのかな……それとも」
「そう遠くない過去の記憶、です……」
「過去視のちから? やっぱり君は」
「わたしは――“星詠み”の、ノーザンクロスの娘でした」
脳髄を蕩けさせるキスは、さきほどの媚薬の残滓でも含まれているのかと思うほどに甘くて、自白を強要されたわけでもないのに、ローザベルを追い詰めていた。
もう、無理だ。
彼にこれ以上、隠し事なんかできるわけがない。
「ローザベル・ノーザンクロス……白鳥座の魔女の娘? だけど君は、魔女というよりも妖精みたいだ……いや、俺にとっての女神かもしれない」
「そんな、大袈裟です」