白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 そのままマイケルに抱き上げられ、ローザベルは鳥肌を立てて抵抗する。けれど、魔法を封じられた状態ではちからある大男に敵わない。マゼンタ色のナイトドレスの裾が、ひらりと舞う。

「嫌ぁっ! ウィルバーさまっ……!」
「ローザぁっ!」
「団長はこっちだ、早く女狐の洗脳をとかなくては」
「俺は、洗脳なんかされてない! 妻を……妻を返せー……!」

 引き離されてしまう。
 副団長の腕のなかで悲痛な声をあげながらローザベルはウィルバーの空色の瞳を追いかける。妻だなんて叫んだら、気がふれていると宣言しているようなものだというのに……
 それでも嬉しいと思ってしまったローザベルは、彼の姿が見えなくなってから、箍が外れたかのように、笑いだす。壊れているのはわたしも、同じ。

「あはっ……はははははは……!」

 狂ったように嗤うローザベルの姿を見ても、彼女を抱き上げているマイケルはつまらなそうに漆黒の瞳で見つめているだけ。
 その表情が気に食わなくて、ローザベルは怪盗アプリコット・ムーンの口調で強く糾弾する。
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