白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 折しも世間が怪盗アプリコット・ムーンに踊らされはじめた頃である。上司にあたる憲兵団長ウィルバー・スワンレイクは自分よりふたつ年上で妻帯もしているというのに、どこか頼りない飄々とした男だった。国民からもスワンレイク王家の恥さらしと呼ばれても反論することなく、静かに国王に従う姿には胸を打たれたが、怪盗とやりあうときだけは子どもみたいにがむしゃらで、しょっちゅう間抜けな姿を部下たちに見せていた。
 こんなことで国家を愚弄する怪盗を捕まえることができるのだろうかと不安になったものだ。

 一方で、マイケルは怪盗アプリコット・ムーンが古代魔術をつかうと知り、また、国家転覆組織の一員だという疑いから、自分の一族が関係しているのではないかと危惧を抱いていた。年頃の魔女は烏座のなかにはいない。だが、“稀なる石”を集めて時間干渉の大魔法を扱える人物なら、該当者がひとりいる。

 ――ローザベル・ノーザンクロス。

 まさか、憲兵団長ウィルバーの妻である彼女が、怪盗アプリコット・ムーンなのか?
 マイケルが疑問を抱いたのとほぼ同時期に、国王アイカラスがウィルバーへ王命を下す。
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