白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ノーザンクロスの娘と怪盗アプリコット・ムーン
+ 1 +
アルヴスの白鳥のなかに灰色の子がいるわ。
灰色なのはまだ雛だからよ。成長したらその子は誰よりも美しい純白の翼を持つ白鳥になるの……ローザベルがおとなになる頃には、そうなっているのかしら。
ノーザンクロスの姫君とつりあうスワンレイクの王子さま。ふたりは精霊たちにも祝福され、愛し愛される慶びを識るけれど、北十字の星は警告するわ。そう遠くない未来に、白鳥の湖に君臨する王家の危機を。
だからローザベル。あなたにしかできない使命を託すわ。月の精霊の魔法を借りて、ラーウスの魔力の源である“稀なる石”を……
「……おばあさま」
寝台の上で眠っていたローザベルはぱちり、と瞳をしばたかせ、さきほどまで視ていた夢を反芻させる。
ウィルバーとの結婚式を控えた一年ほど前に息を引き取った曾祖母、アイーダ。スワンレイクの人間がラーウスに渡ってくる以前から棲んでいて、息をするように古代魔術を操り、初代国王マーマデュークとともに宮廷魔術師として建国に携わったという伝説のようなひとだった。