白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 フェリックスはそう言い切って、マイケルが疑っていた皇太子妃の容疑をはずさせた。
 なぜなら東の塔には秘薬を調剤するための材料が揃っていないからだ。そのため、この薬は妻のオリヴィア以外の何者かが用意したものだとフェリックスは判断、疑惑の目はウィルバーただひとりに向くことになったのである。

 東の塔で調剤することができない毒薬がウィルバーの鞄から出てきたことで、憲兵たちは勝ち誇った表情を見せる。あの美しい魔女、怪盗アプリコット・ムーンがウィルバーを誑かし、国王暗殺のための毒薬を手渡したに違いないとマイケルは断罪する。

「媚薬が入っているのは理解できるがなぜ毒薬が入っている。怪盗アプリコット・ムーンに国王陛下を害するよう唆されたのではあるまいか」

 でたらめだ、俺は仕組まれたんだ、と叫んで否定するウィルバーを前に、異母兄で国王名代となったフェリックスは冷たく宣言する。

「うるさい。西の塔にでも閉じ込めておけ」

 ゴドウィンとは温度差のある接し方は、国王アイカラス暗殺に関わった可能性がある異母弟を非難しているかのようだった。
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