白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
氷のような蒼の瞳がウィルバーに向けられる。お前には失望したとでも言いたげな彼のまなざしに、ウィルバーは屈することなく空色の瞳で睨み返す。
「フェリックスあにうえ、俺のはなしを……!」
「怪盗アプリコット・ムーンに骨抜きにされたお前の話など聞きとうないわ」
頭を冷やしてからにしろと突き放され、憲兵団の詰所からひとり西の塔に連れていかれ長い螺旋階段の頂上に位置する部屋に閉じ込められたウィルバーは、うろうろと狭い部屋のなかを歩き回っていたが、やがて苛立ちを発散させるかのように虚空へ叫ぶ。
「俺じゃない! あんな毒薬、はじめから鞄のなかに入っていなかった……! 俺が東の塔でオリヴィアどのに調剤してもらった媚薬のなかに、丸薬はなかった……ましてや怪盗アプリコット・ムーンが俺を操ってなんてありえねぇ……」
周囲で不安そうに舞っている風の精霊に気づくこともなく、ウィルバーは悲痛な声でローザベルの名を呼び、求める。
「あぁ……ローザベル、君はひどい取り調べを受けていないか。俺は鞄だけ取り上げられて西の塔に閉じ込められてしまったよ。俺も君みたいに魔法がつかえればいいのに……そうしたら」