白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「毒薬、毒薬って騒がれているけど、実際に口に入れたのは一時的に仮死状態になる睡眠薬の一種で、いまもぐーすか眠ってる」
「どういうことだ?」
ウィルバーの鞄のなかから出てきたのはリヴラの秘薬と呼ばれる危険な毒薬だったはず。
だというのに、アイカラスが飲んでいたのは別の薬だという。
「団長さんは知っているよね? 悪名高い僕の叔父さんのこと」
「たしか国外逃亡しているタイタス・スケイルのことか? それが……ぇ、ちょっと待て」
「うん。混乱する気持ちはよくわかるよ。僕もまさか叔父さんがこんな大それたことを考えるとは思わなくて」
たどたどしくダドリーが教えてくれた情報を、ウィルバーは噛みしめ、そうか、とため息をつく。
「国王陛下もそのことは」
「たぶん、感づいていたと思うんだ。怪盗アプリコット・ムーンの騒動がひとまず落ち着いて、おじいさまが退位をほのめかしたでしょ? そこで、父上が次の王になるのを厭う古民族たちの動きが活発になりだして……」
「ゴドウィン兄上を擁立する一派が、第一皇太子妃であるオリヴィアどのを陥れるために画策した?」