白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ローザベルは困惑しているが、ジェイニーは気にせずつづける。
「彼はあろうことかリヴラの秘薬を調合し、コルブスの一族を懐柔したらしい」
「黒き烏と手を組んだ?」
「そうとも言えるかな。タイタスが利用しているってのが正しいんだろうけど。折しも怪盗アプリコット・ムーンが捕まって平穏を取り戻した矢先の出来事だ。これが何を意味するかわかるかね」
「いえ全然」
「彼は時が来るのを待っていたんだよ。国王陛下が退位を宣言し、次の王が玉座に座ろうとするそのときを」
怪盗アプリコット・ムーンによって国がざわめいていたときに潜入し、古一族と接触していた元リヴラの薬師タイタス。彼がオリヴィアに対抗して暗殺用の薬を処方したら、国家を混乱に陥れることなど容易いことだ。
ジェイニーはローザベルに諭すように、ゆっくりと告げる。
「フェリックスどのは近い将来魔法との訣別を宣言するだろう。その際に利用されるのは君だ、怪盗アプリコット・ムーン。そのことを知ったタイタスは、国王陛下を早く表舞台から下がらせたいばっかりに、リヴラの秘薬を第二皇太子ゴドウィンに渡した」