白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 魔法をつかえる人間はローザベルやジェイニー以外にもいるが、“稀なる石”をつかった高位の魔法を扱えるものは殆どいない。怪盗アプリコット・ムーンなら“稀なる石”による召喚術で、タイタスを捕らえることができるはずだと力説し、ジェイニーはたたみかける。

「コルブスの一族はゴドウィン殿下を玉座に座らせるという野望を持っていた。そこをタイタスにつけ入れられ、“稀なる石”でつくられた一族の秘宝“烏羽の懐中時計”を奪われてしまった。彼は代わりにリヴラの秘薬を処方して暗殺の手引きを行ったことになっているが、彼はゴドウィン殿下を国王にするつもりもないだろう」

 そうじゃなければ彼がああも簡単にゴドウィンの意見に従うと思えない、とジェイニーは毒づく。

「フェリックス殿下でもゴドウィン殿下でもない?」
「傀儡の王に仕立てるのにちょうどいい人間がいるじゃないか。落ちこぼれの灰色の白鳥が……ね」
「落ちこぼれの、灰色の白鳥」

 思いがけない単語にぎょっとするローザベル。ジェイニーは真面目な顔でそうさ、と頷く。


「ウィルバー・スワンレイク。君の旦那のことだよ」
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