白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「だけど、ローザベル・ノーザンクロスは存在していない……ウィルバーさまはわたしという存在は取り戻したけど、未だ自分を独身だと思っているわ」
「そう。“やりなおしの魔法”でウィルバーは独身になっている。タイタスがローザベルに“烏羽の懐中時計”をつかう魔法を行使させたくても肝心の彼女がいないのだから彼の思うがままにはならない」
「なるほど」
「なんせいまの君は怪盗アプリコット・ムーンなんだ。“愛”を取り戻した君に怖いものはない」
ダメ押しのように言い放ち、ジェイニーはローザベルの翠緑色の瞳を覗き込む。
「と、いうわけで愛する旦那さんを助けるためにも、やるべきこと、わかるよねぇ?」
「うぅっ……」
いまこうしてる間にも、タイタスの毒牙がウィルバーの前に迫っているかもしれないと報され、ローザベルは唇を真一文字に結び、こくりと首を振る。
――縦に。
「わかったわよ、もぅ……怪盗アプリコット・ムーン様が“稀なる石”で作られた“烏羽の懐中時計”と囚われのウィルバー・スワンレイクをタイタス・スケイルから盗み出してやるんだから!」