白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 ――お兄ちゃん。もし何か食べ物とか出されても食べたら駄目だからね。毒とか人心を操る薬とか自白剤とか混ざってるだろうから。

 無邪気に物騒なことを告げるダドリーは、そう言って、ウィルバーを焦らせる。

 ――それから、もし、お兄ちゃんがこのまま抜け出せないなら、ローザベルお姉ちゃんは僕が攫って花嫁さんにするからね。

 九歳の少年にきっぱり捨て台詞を吐かれたウィルバーは、驚きで何も言えないまま、彼の背中を見送った。

 そしてため息をつく。
 リヴラの一族からはじかれたタイタスは、アイカラスの子となったフェリックスやゴドウィンではなく、落ちこぼれの灰色の白鳥であるウィルバーを傀儡の王に仕立て、このスワンレイク王国を内側から乗っ取ろうと画策している。だからフェリックスはタイタスをおびき寄せるためあえて西の塔へ自分を隔離し、様子を見ている。
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