白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
姿を見せない禁断の薬師、タイタス。ウィルバーが知っているのは、彼がオリヴィアの弟で、さまざまな悪事に手を染めている極悪人であるということだけ。憲兵団長として配属された際に、国外逃亡したという彼の暗躍については先輩憲兵に教えられたものの、彼がどのような容姿をしているのかもはっきりわからない。
「ああもうっ、来るならとっとと来いよ」
「呼びましたか?」
扉の向こうから甲高い声が響き、ウィルバーはえっ、と目をまるくする。
聞き覚えのある声音は、つい先日東の塔で耳にしたもの。
そして、扉の鍵ががちゃりと音を立てながら開いて、四角いトレイを持ったふくよかな女性が顔を出す。
金色がかった色素の薄い茶色の髪に、同系色の瞳。東の塔で薬を調剤してもらったときよりもやつれているように見えるのは、彼女もまた、アイカラス国王暗殺未遂の容疑者として謹慎処分を受けていたからだろう。ウィルバーは疑いが晴れたばかりの義姉の差し入れを前に、逡巡する。
「オリヴィア妃殿下?」
「憲兵団長ウィルバー・スワンレイク。食事と、あと手紙が飛んできたわ」
「手紙?」