白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
これは、どういうことだ? ともに王城へ連行された怪盗アプリコット・ムーン、いや妻のローザベルは、脱獄したということなのか? “烏羽の懐中時計”って何だ? それよりもなによりも。
「囚われのウィルバー・スワンレイク憲兵団長って、俺のことだよな?」
なぜ、怪盗アプリコット・ムーンに自分が盗まれなくてはいけないのか。腑に落ちない。
むむむ、と唸るウィルバーを横目に、オリヴィアがあらあらと微笑んでいる。その、どこか場違いな微笑みに気づいた彼は、一瞬だけ表情を凍らせる。
「素敵な恋文じゃない」
「恋文だと……?」
どこが? と首を傾げるウィルバーを見て、オリヴィアはなんでもないと首を振る。
そして四角いトレイを部屋の片隅に無造作に置かれているサイドボードの上へ乗せ、「あたたかいうちに食べなさいよ」と呟いて去っていく。
残されたウィルバーは、怪盗アプリコット・ムーンから届いた予告状を手に、深く考え込む。
トレイの上の夕食から、シチューの香りが漂ってくる。くぅ、とお腹がひと鳴きして、ようやく食事の時間だということに気づく。