白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
杏色の封筒へ予告状を仕舞い、ウィルバーは甘い香りのするシチューを前に、表情を曇らせる。
「――やっぱりあのオリヴィア妃、ニセモノだな。タイタスの野郎、俺に薬を盛って、何か企んでいやがる」
オリヴィアの弟だから、変装するなら姉になるのが一番自然だと思えた。上手に化けてはいたが、瞳の色がじゃっかん異なる。それにふだんはお喋りな彼女が、あんな風に押し殺したような声でぼそぼそ話すことなどありえない。
――薬が混じっているかもしれない食事には手を出すな。
ダドリーの警告を思い出し、その通りだよ、とウィルバーは空腹を訴えるお腹を無視して、塔の窓からシチューを捨てる。
「つまり、ローザベルも怪盗アプリコット・ムーンになって彼の悪事を暴こうってことだろうな……ったく俺がいないところで何やってるんだあいつは」
囚われの王子様なんてガラでもない。チャンスさえあれば脱獄くらいできるはずだ。
けれど、ここでひとり逃げ出したら、王家が仕組んだ計画に泥を塗ることになる。
ローザベルは無事だから、いまはまだじっとしていろ、ということか。