白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
そして計画を練り直し、タイタスは姉オリヴィアに変装してスプレンデンス城へと潜入、フェリックス国王名代の指示で西の塔に閉じ込められているウィルバーに接触し、毒入りのシチューを用意した。一口飲めば調剤した人間の言うことにしか反応できない操り薬を、彼は口にしているだろうか。まぁ、口にしていなくても妻に魔法をつかわせる際の人質にすることはできるだろう。ノーザンクロスの娘に“烏羽の懐中時計”の魔法をつかわせ、次期国王の傀儡とするためにも、彼が西の塔に隔離されているのは都合が良い。
だが、ここでもまた予想外の邪魔が入る。
――なんなんだ? 怪盗アプリコット・ムーンって。
ウィルバーによって捕らえられ、美しい監獄で取り調べを受けていたという愉快犯なる女怪盗からの予告状が、タイタスを混乱させる。
タイタスは怪盗アプリコット・ムーンが古代魔術をつかえる人間だと知らないため、彼女こそノーザンクロスの魔女の娘でウィルバーの妻であるローザベルだということに気づいていない。