白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
妻のオリヴィアを父王暗殺の犯人に仕立てようとしたタイタスのことを彼は激しく憎んでいる。事情があって彼に組してしまったマイケルにも、それ相応の罰が必要だろうと言い切り、オリヴィアに薬を盛らせたのである。三日三晩トイレで苦しむという強力な下剤を。
「……よく言うわ」
「予め邪魔者やよけいな人間は排除しておけって言ったのはそっちだろう?」
怪盗アプリコット・ムーンの最後の予告状は公にならなかった。だってあれは予告状に擬した恋文だから。
あくまで憲兵団長ウィルバー・スワンレイクただひとりのために送られた予告状の内容を知る人間は彼本人だけ。けれど風の精霊が、王城では見かけない怪しい奴と一緒に手紙を届けてきたみたいなので、その場にタイタスもいたことは推測できる。それにその場にいなくても“稀なる石”の魔法でウィルバーの前に召喚してしまえばいい。
憲兵団は満月の夜に怪盗アプリコット・ムーンが踊ることなど知る由もない。