白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 この寸劇を仕組んだ王家の人間たちは怪盗アプリコット・ムーンに変身したローザベル・ノーザンクロスと憲兵団長ウィルバー・スワンレイクという二羽の白鳥がタイタスを成敗し、今度こそふたりで羽ばたくことを期待している。

「ありがとね。助かるわ」

 ジェイニーが持参した“稀なる石”のネックレスを首からぶら下げ、ローザベルは愛しいひとを心のなかで強く思う。

「“烏羽の懐中時計”につかわれている“稀なる石”は時間干渉にはうってつけの魔法具だ。“やりなおしの魔法”をつかうのなら」
「もう、自分の存在を消させるような“やりなおしの魔法”はつかわないわ。ただ――……」

 黒装束の怪盗アプリコット・ムーンは翠緑色の瞳を隠すべく、黒い紗のヴェールを顔にかぶせながら、くすくす笑う。言葉のつづきはジェイニーに届かず、そのまま。

 転移の魔法が発動する。
 ウィルバーが囚われている――西の塔へ!
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