白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
何もないところから突然現れた怪盗アプリコット・ムーンを見て、ウィルバーはなぜかダドリーに召喚されたときのことを思い出してしまった。そうか、こんな風に突然現れたら、誰だって驚くに違いない。現にタイタスも何事かと表情を凍らせ、その場で身体を硬直させている。
「助けに来たわよ、灰色の白鳥さん!」
「別に助けろとは言ってない……俺だってな、オリヴィアのふりをしていたタイタスをどうにかして捕らえようと考えていたんだ。君だって王城の地下牢に捕らえられていたんじゃ」
「その話はあとで。“烏羽の懐中時計”は彼が持っているのかしら?」
黒装束の美しい女性がタイタスに向き直る。古民族のなかでも使える人間が限られているという“稀なる石”をつかった転移の魔法でウィルバーの前へ颯爽と現れ、女神のような雰囲気を醸し出す彼女の姿を前に、タイタスはここにきてようやく自分の分が悪いことに気づく。
「お前……何者だ!?」
「怪盗アプリコット・ムーン。スワンレイク王国憲兵団長ウィルバー・スワンレイクの、妻よ」
キラリとヴェールの向こうの緑柱石のような瞳が煌く。