白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
フェリックスの隣で生後間もない赤ん坊と化したタイタスを抱っこしているのは、かつての姉であるオリヴィアだ。彼女はこんな奴殺してもいいのにと毒づいていたが、金髪栗目の無垢な赤ん坊の姿を目にして以来、「この子はダドリーの弟として立派に育てますわ!」とフェリックスとともに親の名乗りをあげ、あっさりその座を射止めている。
さすがにタイタスという名前は受け入れられないからと、フェリックスとオリヴィアは息子ダドリーとも相談して新たにライナスと名付けた。
王家を憎み傀儡の王を据えて国を乗っ取ろうと画策した男は、皮肉にもこうして王家の一員になったのである。
記憶だけでなく人生をやりなおす魔法をかけた怪盗アプリコット・ムーンはいま、王城にいない。
「それにしてもオリヴィアよ。怪盗をあのままにして良かったのかね」
「彼女が最後にかけられた薬は、リヴラの秘薬には劣るけど、呪いの類に近いものよ。わたくしの手にはおえませんわ」
ウィルバーと怪盗アプリコット・ムーンがタイタスと対峙した満月の夜。
タイタスは“烏羽の懐中時計”によって“やりなおしの魔法”をかけられ、赤ん坊になった。