白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
政略結婚の駒に使われた哀れな夫は自分のことを王族の恥さらしだと呟き、ローザベルに謝った。自分はたしかに王族だが、王のような立派な城でおおぜいの人間にかしずかれるような優雅な暮らしは到底送れない、いち憲兵でしかないのだと。ノーザンクロスの姫君を深窓の令嬢だと思い込んでいたがゆえの発言だったが、ローザベルは気にしなかった。
むしろ好都合だった。怪盗アプリコット・ムーンとして夜中に活動するローザベルは、予め予告状を送ることで憲兵団の動きを確認できたし、寝室を別にしてもらったことで邸からひとりで抜け出すことも簡単になったのだから……
今回、王の命令で花の離宮へ移ったことで新たに部屋割りを行うことになったが、ローザベルは引き続き寝室を別に希望した。ウィルバーは残念そうな表情をしていたが、「怪盗アプリコット・ムーンをつかまえられたら一緒に寝てあげる」のヒトコトが絶大な効果をもたらした。目の前にいる愛する妻がそのにっくき怪盗アプリコット・ムーン本人であることに夫はまったく気づいていない。