白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 だから怪盗アプリコット・ムーンは正々堂々予告状を出し、今夜も真新しい美術館の屋根の上から軽やかに侵入する。
 白銀のティアラは硝子製のボックスに厳重に囲われ、天鵞絨の朱色の布の上にどっかりと座っていた。
 実物を目の当たりにして動きを止めた女怪盗に、大柄の男が体当たりせんとぶつかってくる。が、それをひょいとかわして彼女ははぁとため息をつく。

「じっくり鑑賞するのは盗んでからにするわ」

 男はその声にぎょっとしたのか、振り向こうとするが、女怪盗はそれを許さない。

「もう、寝てなさい」
「ぐっ」

 ティアラの石がギラリと煌めく。ラーウスの古代魔術で向かってきた憲兵を眠らせて、あらためて“ヴィオレットユーニ”をのぞきこむ。
 この程度の魔術で消耗するような石ならば必要ないと割りきっていたが、見込んだとおり、まだまだ魔力は存分に残っていそうだ。アプリコット・ムーンの手が硝子ケースに伸び、持ち主不在のティアラに届く。
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