白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「憲兵団長ウィルバー・スワンレイク。そんなに見つめないでくださる? 新婚ほやほやの奥様に嫉妬されちゃうわ」
「――なっ、ちょ、待てっ!」
なんでこいつ俺が新婚だって知ってるんだ!?
驚きで目をまるくするウィルバーをよそに、女怪盗は自らの古代魔術で“稀なる石”のちからを発動させる――転移の魔法だ。
「怪盗アプリコット・ムーン!」
「またね、親愛なる憲兵団長ウィルバー・スワンレイクさま!」
ウィルバーの静止をものともせず、怪盗アプリコット・ムーンは今宵もまた、スマートに予告どおりのブツを手に入れ、颯爽と消えたのであった――……
* * *
「あぅ……これでも、足りなかった……」
ウィルバー・スワンレイクとその妻ローザベルが暮らす邸に、怪盗アプリコット・ムーンが盗んだはずの“エト・キュイーヴル”はあった。
ローザベルは未だ王城の憲兵団詰所から戻らない夫を思いながら、赤銅色のプレートを手に持って光の精霊魔法をつかって古代文字を指でなぞる。