白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 魔法を媒介する“稀なる石”を埋め込んだプレートにぼんやりと映し出されたのは、妖精王時代より前、古民族の偉い人間が遺した超個人的なメッセージ、いわゆるラブレターだ。
 多大な魔力が含まれているであろうと期待していただけに、ローザベルはうんざりした声をあげる。

「どうでもいいわ、王様のひと夏の恋なんて。わたしがいま必要なのは愛の言葉じゃなくて魔力なのっ!」

 ――ウィルバーさまの“不確定な未来”を確変させるためには“稀なる石”が持つ強大なちからが必要なのに……これでは時間干渉のための“やりなおしの魔法”がつかえないじゃない。

 応接間の鍵付きの引き出しに無造作に盗品を仕舞い込み、ローザベルははぁ、と溜め息をつく。

 結婚して三ヶ月になる夫、ウィルバーはスワンレイク王国を統べる国王陛下アイカラスの弟の末息子で、国を護る立場から王国の憲兵団長としての任を担っている。
< 308 / 315 >

この作品をシェア

pagetop