白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ウィルバーは仕事柄、毎日が不規則である。そのうえ、さいきんは怪盗アプリコット・ムーンなどという女怪盗が国を騒がせていることもあり、結婚したばかりだというのにローザベルと一緒に過ごす時間は少なく、お互いもどかしい日々を過ごしている……と、夫は思っているだろう。
けれどその怪盗アプリコット・ムーンの正体こそ、彼が愛する妻、ローザベルなのだ。
彼女は結婚初夜に視てしまった“夫が国王を殺して処刑される未来”を覆すため、怪盗アプリコット・ムーンとなって“稀なる石”を盗んでいるのだが、憲兵団長である彼はその女怪盗を捕まえるのがお仕事だ。
今夜も転移の魔法で一足先に帰宅していたローザベルは、夜着に着替えて彼の帰宅を待っていた。怪盗アプリコット・ムーンになって対決する夜は、妻として彼をしっかり慰めてあげたいから。
「ローザ、いま帰ったよ」
「ウィルバーさま、おかえりなさいませ!」
きっと今宵も怪盗アプリコット・ムーンにしてやられたと愚痴りながら、妻の身体をがむしゃらに求めるのだろう。
「そのお顔じゃ、今日も」
「……ローザ、黙って」