白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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結婚して同じ邸で暮らすようになったとはいえ、お互いハジメテ同士のふたりは夫婦になってからも愛の営みを器用にこなすことができずにいた。
そのうえ、夫は仕事で不規則だし、妻は寝付きが悪くなるからと寝室を別にして、互いが干渉する頻度は新婚とは思えないほど少なかったのだ。
だが、怪盗アプリコット・ムーンの登場によって、夫婦が互いを求め合うという謎の現象が起きるようになる。
それは周りの人間から見たら怪盗アプリコット・ムーンにこてんぱんにされた夫を妻が慰める構図になるのだろう。
けれど、怪盗アプリコット・ムーンであるローザベルはただ単に彼を慰めているだけではない。
彼女は彼が怪盗アプリコット・ムーンに感じた怒りや負の感情を自分にぶつけてほしいと、心の奥底で密かに希っているのだから。
「っ……ウィルバー、さまぁ……っ」
「女怪盗に嫉妬なんかしなくていいんだよ、ローザ。いつだって俺がこんなふうに愛してあげるから」
妻の淫らな願望など知る由もない夫は、荒々しいところを見せながらも、けしてローザベルを傷つけない。一緒に気持ちよくなって、それだけで満足してしまう。