白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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高度な上位魔法をつかうには“愛”がなくてはならない。その愛は恋愛に非ずとアイーダは言い残した。
けれども不特定多数の人間や国家への“愛”を歌ったところで“稀なる石”は応えてくれない、とも。
既に未亡人だったアイーダは愛を捧げる対象が不在だった。そこへ颯爽と現れたのがマーマデューク・スワンレイクだ。彼はスワンレイク王国を建立した初代国王として星詠みのちからを持つアイーダを重用した。彼女は“敬愛”で応え、国家の礎の建設に協力、彼の地位を不動のものとする。
当時のローザベルは八歳になったばかりだった。マーマデュークがノーザンクロスの一族をはじめとしたラーウスの先住民族との融合を提案したことで一部の人間からは反対の声もあった。なかでもノーザンクロスの分家筋にあたるコルブスの一族がこれを機に絶縁したのはローザベルの記憶にも残っている。
けれど、最長老のアイーダがマーマデュークへ“愛”を捧げたことで、彼らは黙らざるをえなくなる。
彼女が扱う魔法のちからはそれだけおおきく、敵対でもしようものなら、存在を消されかねなかったからだ。