白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 建立されて十年目を迎えるスワンレイク王国の妃に捧げられる予定だった“ヴィオレットユーニ”。けれど王はそのティアラを国民に見せるよう美術館に指示し、展示が終わってからこっそり楽しむと言い放っていた。
 それを一方的な理由で盗んで自分の手元においてしまうことに罪悪感がないとは言いがたいが……

「覚悟しろ、アプリコット・ムーン!」
「その声は憲兵団長……ウィルバー・スワンレイクっ!?」

 いけない、考え事をしていたからか憲兵団長、ウィルバーの存在に気づくのに遅れてしまった。アプリコット・ムーンは慌ててティアラを掴みとり、自らの頭にそっと載せる。

「こいつ、王妃のティアラを……!」
「ごめんあそばせ」

 聞き慣れた彼の怒鳴り声をばっさり遮り、女怪盗は優雅に微笑む。新大陸で流行しているショート丈のワンピースにストッキングというありきたりの姿なのに、全体を黒に統一しているからか、ミステリアスな印象を抱かせる。顔をレースのヴェールで隠しているからなおさらだ。長い黒髪をなびかせながら、女は空色の瞳の男へ視線を流す。
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