白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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祖父が新大陸でスワンレイクという国家を建立した翌年、ウィルバーもアルヴスからラーウスへと船で渡ることになった。
父親がわりのグランスピカの憲兵は流れ弾にあたって死んだ。後にあれはマーマデュークの孫だと判明したウィルバーを狙ったものだったのだと知り、肝を冷やした。
呼び寄せられた理由もわからないまま、彼はひとりの少女と顔をあわせることになる。
「はじめまして、白鳥の雛鳥さん」
フリルもレースもついていない、シンプルな黄色がかった橙色のワンピースドレスを着た黒髪の短髪の少女は、ウィルバーと同い年くらいだった。白鳥の雛鳥、という言葉に驚いて顔をあげれば、少女が針葉樹林を彷彿させる鮮やかなみどりの瞳を向けて、楽しそうに微笑む。
「おばあさまの予言は、ぜったいにはずれないの。いまは灰色の白鳥さん」
王族の恥さらし。蛮族の奴隷を母に持つ息子……醜い灰色の白鳥。
十歳のウィルバーは自分を蔑む数々の単語の意味を知りはじめていた。事実だから怒ることはないけれど、初対面の可愛らしい女の子にまでそのようなことを言われてしまうとすこし、いやかなりがっかりしてしまう。