白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
それでも少女はウィルバーの反応を気にすることなくお喋りをつづけていく。
その、小鳥が囀ずるような愛らしい声音に、いつしかウィルバーは引き込まれていた。
「知ってる? 白鳥の雛鳥はみんな灰色なの。おとなになったら、純白の綺麗な翼で大空を羽ばたくのよ」
灰色の白鳥はそう遠くない未来、誰もがうらやむ美しくおおきな白鳥へと成長するのだと告げられ、嬉しくなる。
彼女の名前はローザベル・ノーザンクロス。ラーウスの先住民族で、古代魔術を継承している星詠みが専門の魔女の娘だ。
ラーウスに渡ったウィルバーはスワンレイク王国の城で死の床についていた国王マーマデュークと謁見した。病床ではじめて見た祖父王の姿は偉大としか言いようがなかった。
その彼に、紹介されたのがローザベルだ。宮廷魔術師アイーダの曾孫で、十歳でありながら精霊と対話でき、ささやかな魔法を扱える神秘的な姫君。ウィルバーと同い年でありながらどこか大人びた風貌に、軽やかな短髪が印象的だ。ほかにもすらりとした脚に膨らみだした胸というアンバランスな体つきに、何よりも吸い込まれるような翡翠色の虹彩がウィルバーを魅了する。