白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 ヴェール越しに輝く虹彩の色も黒かと思いきや……鮮やかな緑柱石(エメラルド)のような色を宿していた。翠緑(すいりょく)色とでも呼べばよいのだろうか。
 その姿を目の当たりにしてさきに視線を逸らしたのは、栗色の髪の男の方だった。


 ――ウィルバーさま。王家の血縁に連なる貴方にとって、この行為は冒涜でしかないのでしょうね。


 目の前にいる男を一瞥し、アプリコット・ムーンは踵を返す。一時的な目眩ましの術は効くが、魔法耐性を持つ彼本人に攻撃する古代魔術はつかえない。出くわしたが最後、彼に捕まらない華麗に逃げ切るしかないのだ。

「王妃のティアラ“ヴィオレットユーニ”、たしかに頂戴いたしましたわ。団長さん、ごきげんよう」
「待て、こら!」

 手をあげて逃げ出す彼女の周囲で光の洪水が発生する。転移の魔法を発動させられ、目を眇めたウィルバーはそれでも彼女を捕まえようと身を乗り出して――……穴に落ちる。

「ちゃんと前を見ていないからですよ?」
「このっ……!」

 落とし穴にはまった間抜けな憲兵団長を見届けて、華麗な女怪盗は今宵も目的のブツを手にいれたのであった。
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