白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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愛しい妻のことを思い出すとどうしてこんなにも頬が緩んでしまうのだろう。ウィルバーはにやつく表情を押しとどめ、玉座に座るアイカラスを見つめる。
「予告状が届いた、か」
「その通りです。それも『花の離宮』に」
「――神殿跡の遺物が今回の標的か」
「予告状には『聖棺』と」
「おやおや」
自分がウィルバー夫婦に花の離宮へ移るよう命じてすぐに、怪盗アプリコット・ムーンから予告状が届いたという。
向こうも不確定な未来が近づいていると考えたのだろう、自分の夫に正体が露見する危険を冒そうとしてまで、彼女は怪盗としての務めを果たそうとしている。
アイカラスは何も気づいていないウィルバーにさりげなく提案する。
「任務遂行をするというのなら、妻の身柄はこちらで預かりたい」
「ローザを? 別に彼女がいても問題ないのでは」
「相手は得たいの知れない古代魔術を扱う怪盗アプリコット・ムーンだ。危険な目に遭遇するとも限らない……それに、わしの元へわざわざ事前に来たというのはウィルにもあの女怪盗を生け捕りにするための考えがあるのだろう?」