白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 アイカラスはにやりといやらしい笑みを浮かべている。そう、ウィルバーがノーザンクロスの娘との婚姻によって得た北十字の守護のちから――魔法耐性をその身体に上書きしたのと同様、アイカラスの身体にもまた、初代国王マーマデュークが残した“呪い”とも呼べる古代魔術による異なるちからが宿っているのだ。

 王の秘密を知るのはウィルバーより先に亡命した父の正妻のふたりの息子……げんざいアイカラスの養子として扱われている皇太子をはじめとしたスワンレイク王家の後継候補のみ。後継候補から除外されていたウィルバーがこの秘密を知ることになったのは、ローザベルとの結婚によって憲兵団長の地位を賜り、国民に王弟の息子であると認知されるようになったからだ。とはいえ、アイカラスはウィルバーを次の王にするつもりはないとからから笑っている。
 ウィルバーも自分が王の器となりうる人間だとは到底思っていない。仕事は忙しいが、愛する妻と充実した生活を送れているのだから文句はないと伯父に言い放てば、彼はすこしだけ困った顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。

「はい。幻術には、幻術で対抗します」
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