白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 血にまみれたアイカラスはウィルバーに背を向けていた。そしてその背中に隠れていたのは、黒い服を着たローザベルだ。
 この格好から、自分が怪盗アプリコット・ムーンとして失敗し、王のもとに連れてこられたのだなと解釈したローザベルだったが、なぜアイカラスがローザベルを庇うようなかたちで倒れているのだろう。
 もしかしたら、愛する妻に裏切られたとウィルバーが激昂し、その剣で自分を殺そうとしたのだろうか。
 そしてアイカラスに庇われた? ……だとしたら、どうして?

 ウィルバーと結婚してから視えるようになってしまった不確定な未来。その未来を変えたくて“稀なる石”を集めるようになった結果、視えてきたのは変わることのない不確定な未来。
 いたちごっこのような状況に、ローザベルは困惑した。

 そんなときに出逢ったのが、榛色の瞳が愛らしい現皇太子妃オリヴィア・スワンレイクだ。
 子を持たないアイカラスが亡き弟の正妻の子どもたちを養子とした話はローザベルも知っている。義兄ふたりとは自分達より十歳以上年上で、ウィルバーも腹違いの兄とラーウスで実際に顔をあわせたのは結婚式の日だけである。
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