白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
アイカラスはマーマデュークの死の間際にその秘密を知ったのだろう。ノーザンクロスの人間が“稀なる石”を扱うことで過去・現在・未来の時間干渉をも可能にし、国家の危機を守る役目に就いていることに。
ただ、今回は事情が異なる。天変地異を視たならば素直に“稀なる石”をつかわせろと訴えれば良かった。夫が王を殺すかもしれないから大魔法をつかわせろ、なんて素直に言えるわけがない。下手をしたら王を殺す前から反逆者扱いだ。
だからローザベルは黙って怪盗アプリコット・ムーンとなっていたのだが……下手に目立ってしまった。それゆえ、王もしぶしぶ最後通牒を出したのだろう。
「……というわけだから明日一日、王城でオリヴィア義姉さんと一緒にいてもらいたいんだ」
「怪盗アプリコット・ムーンが花の離宮に来るのですか?」
「予告状にはそう書いてある。君が危ない目にあったら大変だからと、王に言われたんだ。明日の朝、迎えの車が来る。一日会えないけれど、我慢できるだろう?」
「……仕方ないですね」