白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
石室のある右側の部屋を選んだローザベルを追いかけ、ウィルバーもつづく。
王から地図を借りているが、まっすぐ行くと檻が、左側の部屋に進めば拷問部屋があるのだという……ローザベルがすたすたと石室に進んでいるのは、怪盗アプリコット・ムーンが狙う“稀なる石”が宿っているという聖棺がどのようなものか気になっているからだろう。聖棺のなかに誰が眠っているかなど、アルヴス出身のウィルバーは知らないけれど……
「これだと思います! ほら、立派な宝玉が中央に飾ってある!」
興奮気味の妻の声で我に却ったウィルバーは、慌ててその場へ走っていく。真っ白な石でできた聖棺の蓋の部分に、まるくておおきな薄紅色の宝玉が載っている。
――こんなにおおきなものを盗む、のか?
いままでウィルバーが見てきた“稀なる石”はどれも片手で持てるくらいのおおきさだった。だというのにこれは、明らかにサイズが違う。
嬉々として棺の蓋を撫でる妻を前に、ウィルバーは目をまるくする。
「光の精霊さんも驚いてます。これだけの魔力があれば……すごいですね」
妻の一言でウィルバーの脳裡に仮説が浮かぶ。