白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「そんなにすごいのか? 俺にはただの綺麗な石にしか見えないけど……」
疑う夫を窘めるように、ローザベルはくすりと笑う。
「じゃあ、過去視のちからを、すこしだけ……」
その瞬間、聖棺に嵌められていた薄紅色の“稀なる石”が煌めきはじめる。目の前に霧がかかり、ウィルバーは思わずローザベルの手を握りしめていた。
怪盗アプリコット・ムーンと対峙したときに感じた膨大な魔力がウィルバーを襲う。たしかにこれは常人では魔力に抗えないだろう。
「ローザ?」
「花嫁行列がこちらに向かってきます。神殿で儀式を行い、先祖たちへ挨拶を行います」
――ローザベルは緑柱石のような瞳を輝かせて恍惚とした表情で石室を、しいてはこの神殿跡地全体を俯瞰していた。
彼女の脳裡には、ラーウスの古民族同士の結婚式の情景が浮かび上がっていた。ウィルバーにも視せられるかと思ったが、彼は全体を視られないようだ。だが、自分達が佇んでいる石室に花嫁行列が入ってきた途端、ウィルバーの手がぴくりと震えだした。
「……うそ、だろ」
「あ、石室へ入りましたね。ウィルバーさま、わかります?」
「ああ……これが夢占の景色なのか?」