白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「ここが、おばあさまがはじめに“愛”を捧げた場……んっ!?」
ぽつりと呟くローザベルの言葉は、ウィルバーの唇によって吸いとられてしまった。
そのまま聖棺の上へ押し倒され、ローザベルの身体が“稀なる石”へふれる。明日、怪盗アプリコット・ムーンになって盗む予定の石は、ローザベルが施した過去視の魔法の余韻なのか、淡いひかりを保っている。
「ウィル、バーさまっ?」
「あんなものを見せられたら、どうなるかくらいわかっているよね? 愛しいローザ」
ぎらぎらとした空色の瞳がローザベルを射る。穏やかなまま終わるはずだった夜は、ローザベルの気まぐれな魔法で一変してしまった。
燃え上がるような夜が、はじまろうとしている。