白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
……ローザが怪盗アプリコット・ムーンだなんて、ありえない。いくらヴェール越しに見えたあの瞳の色が同じだったからって……
怪盗アプリコット・ムーンと対峙した一瞬。ヴェール越しに瞳が見えたのは初めてだった。そして自分の空色の瞳を見据えられたのも……あのときに感じた鋭い緊張を、ウィルバーは忘れられずにいる。
「ウィルバーさま。昨日は残念でしたけど、あまり気を落とさないでくださいね」
「ああ……ローザも起こしてしまってすまない。王城へ報告に行く気になれなくてな」
弱音を吐きながら、ウィルバーはローザベルの長い髪に指を絡ませ、ため息をつく。
腰までのばしたまっすぐの長い黒髪に、透き通った白磁のような肌。翡翠を彷彿させる宝石のような瞳、薔薇のように愛らしい紅色の唇に柔らかな乳房……すべてを手にいれているはずなのに、いまもなお恋しくなってしまうのはなぜだろう。それも仕事で大失態を犯したばかりだというのに。
「王城……王妃さまのティアラだから、ですか?」