白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ローザベルと薔薇の花と皇太孫ダドリーの初恋
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クリームイエローの薔薇の花々が門前で盛りを迎えている。幾重もの花びらが重なる小振りな薔薇の中央部分がほのかに赤みがかっている姿が可愛らしく、ローザベルは花の離宮の命名の由来となった神殿跡地に植えられた薔薇の花を見つめながらぽつりとこぼす。
「あの薔薇の品種名、アプリコット・ムーンって言うそうですよ。なんの因果でしょう」
「怪盗さんはそのことを知っていて名乗ったの?」
「いいえ。“稀なる石”をはじめて盗みに入った際に見た月が杏色だったから。それだけのことです」
「そうだったの。僕は、ひいおじいちゃまの意趣返しにも思えたよ」
ローザベルの隣で無邪気に話を聞いているのは九歳になるオリヴィアのひとり息子、ダドリーだ。
スワンレイク王国の王位継承順位がアイカラスの養子二人に次ぐ第三位に入っている幼さの残る金髪の王子さまである。
まんまるな榛色の瞳はオリヴィア譲りのようで、亡き王弟の息子たちと違い、彼だけはラーウスの古代魔術を継承しているという事情がある。