白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 ラーウスでも鉄の塊のような自家用車が走り出しているものの、道路が舗装されていない花の離宮周辺では未だに馬車での通行が一般的だ。予想通り、王城の迎えは古めかしい馬車だった。車での迎えだったら忍び込めなかったから馬車で助かりました、とダドリーは悪びれることなく笑っている。
 馬上の御者は皇太子の息子がいることに気づくことなく、ガタガタの道を荒々しく進んでいく。

 初代国王マーマデュークがこの神殿跡地を新たな離宮とするため改修した際に植えられた多数のアプリコット・ムーン。赤みがかった黄色が特徴的な薔薇は、廃神殿の魔力にあてらつづけたからか、突然変異を起こしたらしく鈴なりに花をつけているものが多い。
 薔薇の品種を知る人間などそう多くもないだろうが、アプリコット・ムーンが咲き乱れる花の離宮を舞台に怪盗アプリコット・ムーンが最後の大立回りを行うことがお膳立てされていたかのようで、ローザベルは落ち着かない。
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