白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 ダドリーが継承したのは古代魔術のなかでもポピュラーな透視術である。過去視や未来視はできないものの、ひとを視る目だけは確かで、彼の前では何人たりとも嘘をつくことができない、という王族である彼が持つには強力な魔法だ。
 ローザベルを怪盗アプリコット・ムーンだと即座に暴いたダドリーだったが、ほかにも祖父のアイカラスはマーマデュークを殺していないけど病気にもっと早く気づけていたらといまなお後悔しているとか、オリヴィアが結婚の際に弟のタイタスと喧嘩して絶縁したとか、その弟が薬師一族の秘薬を盗んで犯罪に手を染めながら逃走中だとか、父親のフェリックスは魔法嫌いだけどオリヴィアを愛している気持ちは本物だとか、しょっちゅう旅行している叔父のダドウィンの古代魔術講義は視野が拡がるとか、なぜかローザベルにさまざまな情報を教えてくれる。
 なかでもマーマデュークの死の真相をこのような形で知ることができたのは僥倖だろう。
 けれど、いまはまだ初代国王マーマデュークの死の真相をノーザンクロスの一族には伝えない。伝えたら、“稀なる石”を集めているローザベルが不審がられてしまうからだ。
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