白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「だから宮廷魔術師アイーダさまは、初代国王が崩御されてから魔法を封じたの?」
「そうよ。前の夫に捧げた“愛”と初代国王陛下に捧げた“愛”のかたちは異なるものだから、ほんとうならばいまの国王さまにも“愛”を捧げて宮廷魔術師としての地位を保つことだってできたの……でもね」
マーマデュークの死に、疑いを抱いてしまったアイーダは、素直にアイカラスに次の“愛”を捧げられなかった。だから隠居すると宣言し、魔法をつかうことを封じたのだ。
「だからダドリー、あなたがわたしを愛してくれるって言っても、わたしは“愛”を返せない……」
ポロポロと涙をこぼしながら、ローザベルは馬車のなかで言葉を紡ぐ。ごめんなさいと、か細い声で。
「泣かないでお姉ちゃん。僕の方こそ困らせてごめんなさい。だけどこの気持ちをいつ言えるかわからなかったから……お姉ちゃんがどこか遠くに行ってしまいそうだったから……」
その言葉に、ローザベルの身体がぎくりと震える。けれど、彼女の言葉を聞いてうなだれているダドリーは、既に透視をしていない。
「ほんとうに、お姉ちゃんは旦那さんがすきなんだね。羨ましいな」