白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
「十歳のときに婚約者として顔を合わせたの。そのときから、お互いにこのひとしかいない、って想っていたから……たぶん。ダドリーにも近い将来、素敵な伴侶が見つかるはず、です」
「それはお姉ちゃんの未来視?」
「いいえ、希望的観測です」
「そこは未来視のちからです、って自信満々に言ってほしかったなぁ……」
ふふ、と笑いながらダドリーは頷いて、ローザベルが流した涙を指で拭う。くすぐったいです、と言い返す彼女の顔を見つめて、真面目な表情に戻る。
「――それで、今夜は王城を抜け出して神殿跡に行くんだよね? 僕に協力できることはある?」
「ダドリー」
「転移の魔法を使うにしても、誰もいない場所の方が都合がいいでしょう? 寝る前に本の読み聞かせをしてもらう、ってお母様にワガママ言うから、僕の寝室から翔んでよ?」
え、と驚くローザベルに、ダドリーが言葉をつづける。
「たぶん、おじいさまには露見しちゃうだろうけど、お母様やほかの使用人たちを欺くことならできるはず。お仕事を終えたらすぐに僕の部屋に戻ってきてくれればたぶん大丈夫。読み聞かせをしているうちに一緒に眠ってしまった風を装えば、朝までもつよ」