白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 それは、星を詠み時を操るノーザンクロスの一族のなかでも限られた人間しかつかうことの叶わない、“やりなおしの魔法”。
 初代国王の宮廷魔術師だった曾祖母のように、国家の危機を救うという大義名分はなく、ただ、愛するひとに訪れるであろう危機を救いたい、それだけのために。
 ローザベルは危険を省みることなく、ひとり、突っ走るつもりでいる。

 スプレンデンスの花に見惚れた後、うーんと考え込んでしまったローザベルをじっと観察していたダドリーは、彼女の変わらぬ決意を透視()てしまったのだろう、すこしだけ淋しそうな表情を浮かべて小走りで城のなかへと入っていく。もしかしたらジェイニーに報告へ行ったのかもしれない。

 ノーザンクロスの一族から“愛”をもらわなかったアイカラスだが、いまは古民族のひとつであるジェミナイの人間が宰相となってかつてのアイーダのような任務を担っている。

 いまげんざい宮廷魔術師と名乗ってはいないものの、投影術に秀でたジェイニー・ジェミナイというどっちが名前でどっちが姓なのかわからない女がアイカラスの王政を支えている。
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