白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
思った通り、ダドリーが黒いローブを羽織った赤毛の女魔術師を引き連れてきた。猫を彷彿させる銀の瞳がひらかれ、ローザベルを睨みつける。
「ローザベル・ノーザンクロスだな。よく来た」
「いまはローザベル・スワンレイクよ。ジェイニー・ジェミナイ。相変わらず失礼なひとね」
「失礼だと? この場でアプリコット・ムーンと呼ぶよりマシだと思え。幼馴染なんだから別に構わないだろ。それよりローザ、旦那と喧嘩でもしたのかい? 別れるつもりみたいだけど」
「貴女まで勝手に心を読むのね! 喧嘩なんてするわけないじゃない、わたしは彼に“愛”を捧げたんだからっ」
「ふぅん。すきなのに別れるつもりでいるんだ? “稀なる石”関連のゴタゴタで。おまけにダドリーくんの初恋まで弄んで。罪な女怪盗だなぁ」
「文句を言いに来ただけ? 王様は元気?」
「アイカラス陛下なら今夜憲兵に扮しておたくの旦那と一緒に現場に行くつもりだよ」
「なんですって!?」
ダドリー同様、透視のちからを持つ彼女はローザベルが怪盗アプリコット・ムーンであることももちろん知っている。
ただ、彼女は協力者ではなくあくまで傍観者の位置を貫いている。