白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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ダドリーの部屋の窓からおおきな月がのぞいている。赤みがかった黄色い、はんぶんの月。
オリヴィアとダドリーの母子とともに夕食を終え、ダドリーの部屋の鍵を借り、彼に勉強を教えるという名の寝かしつけを行った後、客室に付随している浴室を借りて湯浴みをしたローザベルは、ナイトドレスのまま、ふたたびダドリーの部屋へお邪魔した。
寝ないで起きてローザベルが怪盗アプリコット・ムーンに変身して転移の魔法をつかうところを見るんだと言っていたくせに、絵本を読んであげたら瞬く間に夢の世界へ入ってしまった幼い子どもは、いまも寝台のうえですやすやと気持ち良さそうに寝息を立てている。
「ダドリー、ごめんね。ありがとう。行ってきますね」
彼はローザベルの選択をどう思うだろう。大魔法の影響がどう響くのか、ローザベルにも予想できない。なるべく小範囲に抑えたいと思っているけれど……
ナイトドレスを脱ぎ、持参した怪盗アプリコット・ムーンの黒装束に着替え、手元の“稀なる石”に呪文を唱える。