白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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王城のダドリーの部屋から転移の魔法をつかって花の離宮神殿跡地の石室へ降り立ったローザベルだったが、待ち伏せしているであろう憲兵たちの姿が見えず、困惑する。
――予告状は確かに送ったし、多くの憲兵団員が花の離宮周辺を警備しているって情報も耳にした。けれど、肝心の石室にひとの気配がないってどういうこと?
うっすらと光る苔が石室を幻想的に映し出しているが、アプリコット・ムーンの格好をしたローザベル以外、誰もいない。
「怪盗アプリコット・ムーン様が今宵も“稀なる石”を頂戴いたしますよ?」
聖棺の前に立ち、儀礼的に声をあげても周囲はしん、と静まり返ったままだ。
ローザベルはおそるおそる、聖棺に付属する薄紅色の“稀なる石”へ手を伸ばしてその魔力を――……
「良い月夜ですね。怪盗アプリコット・ムーン」
「――だれ」
背後から届いた低い、艶のある声に、ローザベルは立ちすくむ。憲兵団長ウィルバーではない、強い魔力に抗える強いひとが、そこにいる。
「今宵は趣向を変えてみようと思いまして。慌てることもないでしょう?」
「……あ」