白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
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怪盗アプリコット・ムーンは俯いたまま、諦めに似た表情を浮かべていた。逃げ出すつもりはないらしい。ウィルバーは失意の女怪盗を無造作に引きずり、神殿跡地の奥に設営されていた小汚ない檻のなかへと押し込み、手首と足首を片方ずつ黄金色の枷で繋がせる。どこか嗜虐的な光景にウィルバーの空色の瞳が獣のように光る。
「ようやく捕まえたぞ、怪盗アプリコット・ムーン……黒いヴェールの奥に、こんな美しい顔が隠れていたとはな」
満足そうに呟き、ウィルバーはローザベルを檻のなかへ置いて、鑑賞する。
処遇は追って報せる、見張っていろという王の命令通り、今夜は檻の外で女怪盗を見張りつづけるつもりらしい。
檻のなかで枷をつけられ放置された状態を夫に見つめられているという特殊な状況下だが、ローザベルはだんまりを決めている。
――ウィルバーさまがローザベルの存在を忘れている今、下手なことは言えないもの。