あなたとしゃぼん玉
少しの沈黙の後、父親がまた話し出した。

『もう朝日はいなくて………麻由ちゃん、朝日と仲良くしてくれていたのを知っていたので…連絡しました。娘の言葉はお葬式やお通夜がもしできる状態であれば、来ないで欲しいと伝えて欲しいという言葉だけです』

申し訳なさそうに伝えられたが、頭が追いつかない。

なんで、また……そんな突き放すような言葉を言うの。

みんなに優しい朝ちゃん。

朝ちゃんは、いつだって友だちの悩みや誰かの顔色が悪いとき、誰よりも早く気づいて寄り添ってくれる人だった。

とても頑固だし、強情だし、たくさん捻くれているとこも確かにはあるんだけど、友だちを見捨てることはしない人だった。

そんな朝ちゃんは絶対に家族話、自分の話は話さない人だった。

話したがらない人だった。

死んじゃってもなお、どうしてそんなに、冷たいことを言うの。

………朝ちゃん。

悲しすぎるよ。

「………いつ亡くなったんですか」

隣にいる長女が「ママ?」と服の裾を掴みながら心配してくれた。

泣かないように必死に堪えた。

こころがえぐられるような気持ちだった。

『……ごめんなさい。どうしても気付くのが遅くて……2週間前には亡くなっていました。遺体の腐敗がその時にはもう激しくて………朝日の火葬も1週間前には終わっています。連絡が遅くなって本当に申し訳ない。』

その言葉に麻由は泣き崩れた。

訳もわからず、長女も泣いた。

少し遠くで、1歳半にもうすぐなる長男にまで伝染してしまい、部屋中に3人の泣き声が響き渡った。

「朝ちゃんーーー。なんでよ………朝ちゃん。…コロナが落ち着いたら皆んなで沖縄行こうって言ったよね…?!」

「…ママァ、朝ちゃんがどうしたの………?なんでママ泣いてるの?」

友だちがこの世にいないということを想像したことはありますか?

歳を取って、シワが増えて、例えば目や耳が悪くなってしまったとしても、朝ちゃんとは友だちでいるはずだった。

歯が抜けて、白毛が生えてしまっても、朝ちゃんなら「気にしなくていいんだよ」って励ましてくれて、わたしも「そうだね」って笑い合うんだと思ってた。

でもそれは70歳とか、80歳まで生きていた未来の話であって、25歳という若さで朝ちゃんがこの世にいない想定なんてしてなかったよ。
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