あなたとしゃぼん玉
「おし、今日の外回りはよ終わったし、飲み行こう!石田ちゃん」
「やったー!どこ集合します?大矢さん!」
営業部は数字がすべてで、いつも抜かりなく働き、かなり精神的にも肉体的にも辛いし苦しいがやりがいがそれ以上にあった。
営業部は全員で15名いたが、その中でも仲の良いメンバー6人で仕事終わりに飲み会や休日に遊びに行くことが多かった。

楽しい。
社会人になって良かった。
この会社や営業部を選んでよかった。
しんどくて辛くて、大変なこともたくさんあるけど。
この人たちと知り合うことが出来てよかった。
こころの底から思った。

その翌年、業績の良かったわたしが配属する営業部は新しく建てる営業所に「営業特化管理グループ」として抜擢されることになった。
実家から通おうとすると職場まで1時間ほどかかることと、いち早く家を出たかったわたしはこれを機に一人暮らしを始める。
新しい部署には同じ営業部の大矢さんとわたしが抜擢されたこと、わたしが一人暮らしを始めたことが関係を加速させるきっかけとなる。

(おお)さん!今日会う先方の資料仮まとめしたんで、チェックしてもらって良いですか?」
「おー、朝日お疲れさん。見してみ」
喫煙所で煙草を吸う大矢さんに今日必要になる資料を手渡す。
「ほらよ」
「ありがとうございます!」
いつも決まって渡しに行くと、大矢さんはわたしがよく飲んでいるカフェオレをくれた。

社会人3年目、22歳。
酸いも甘いも知った、上司としても部下としても、中間の立場でてきぱきと仕事ができるようになった。
少しの罵声などでも動じなくなったわたしは、3年目のこの時期にも仕事に意欲的に取り組んでいた。
3年目も同じ配属先で上司と部下として働いていたわたしと大矢さんは「大矢さん」「石田さん」から「大さん」「朝日」と呼び合うまで仲良くなっていた。
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